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安静臥床が及ぼす全身への影響

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現在、コロナウィルスによる影響で感染対策が行われています。恐らく予定がキャンセルになり活動の量が少なくなっている方も少なく無いと思います。人間どうしても楽をしたくなり家の中で横になってしまいます。では、身体にはどのような変化が起きるのでしょうか?
前回は重力を受けない宇宙空間の話をさせていただきましたが、
今回は実際動かず横になっている”安静臥床”の状態であるとどうなるのかというのを
Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 11 2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/11/56_56.842/_article/-char/ja/
↑論文を参考にまとめてみました.

安静臥床が起こす弊害

    ・筋量や筋力低下
    ・関節拘縮
    ・循環血液量減少
    ・心機能低下による起立性低血圧
    ・最大酸素摂取量の低下
    ・肺活量低下

安静臥床研究の歴史

70年以上も前からベッド上安静臥床の弊害は認識されていて、
元々は1960年代以降の宇宙時代の幕開けとともに,宇宙空間で過ごし
たときのヒトの生理機能に及ぼす影響のシミュレーションとして,
地上での安静臥床による基礎研究が行われるようになりました.
1966 年に The Dallas Bed Rest and Training Study
が行われ,20日間の安静臥床が
健常若年者の最大酸素摂取量を28%低下させることが報告(Saltin Bら)
安静臥床の状態で心臓への負担が少ない環境に適応した結果,
全身の血液量は減少し(Taylor HLら)、心筋は萎縮(Perhonen MAら)、加えて,身体の不活動状態は
筋骨格系,循環器系,呼吸器系,消化器系,泌尿器系,精神神経系など
全身に悪影響を及ぼすことが分かります.

1.筋骨格系

1)筋量減少,筋力低下

・平均67歳の健常者の10日間安静で筋蛋白合成率が0.077から0.051へと低下し,約6.3%の筋肉量減少が生じる.(Donaldson CLら)

参考までに安静臥床1日では1%筋肉量が減少する。

・疾病保有者では 17.7%の筋肉量減少がみられた.
・(Müllerら)ギプス固定による研究によると,1日の安静で1~4%の筋力低下が起こり,3~5 週間で約 50%に低下する.
・日本人では,平均 76 歳の骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折患者の3週間の床上安静で,
 全身の筋肉量が5%有意に減少した.(長町ら)

2)骨密度減少

骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折患者の報告の中で,
3週間の安静臥床により骨盤の骨密度が7.3%の有意な減少を認めた.
さらに,20週ほどの安静臥床では 30~50%の骨密度減少をきたす.(Donaldson CLら)
不動による骨密度減少は,骨吸収亢進により生じるとされる.
元より低栄養状態やステロイド治療など,
骨量減少の誘発要因がある患者は骨密度の減少が進行しやすい.

3)関節拘縮

ラットの膝関節固定実験で,約2週間で関節包の厚さが減少し,疎性結合織が密性結合織に変化し,滑膜表層と脂肪織の萎縮や線維増生が起こる.(佃ら)
また,ラットの足関節ギプス固定実験では,皮膚や腓腹筋・ヒラメ筋といった付着筋が関節可動域へ関与する.(岡本ら)

2.循環器系

1)循環血液量の低下


(Jpn J Rehabil Med Vol. 56 No. 11 2019 図1)
まず,立位時に血液が重力によって下肢へ移動することで静脈還流量が減少する.
その結果心拍出量が減少すると,調節システムが機能しない限り,血圧が低下する.
血圧の低下は,頚動脈洞と大動脈弓の圧受容体により感知され,
圧受容体からのシグナルが脳幹の循環調節中枢に作用し,交感神経活動が亢進することで,
心拍数と末梢動脈抵抗が上昇し,心拍出量が維持され血圧が保たれる.
また,抗利尿ホルモンが分泌され循環血液量が増加し,血圧維持に働く.

反対に立位から臥位になると,下肢から約700mLの血液が胸腔内に移動し,
一時的に心拍出量が増加する.
血圧を一定に保つよう圧受容体が作用し末梢血管抵抗を低下させる.
この状態を人体は心肺容量受容器を介して体液量の過剰状態と判断し,
抗利尿ホルモンの分泌低下やレニン活性の低下,腎交感神経活動の低下および
心房ナトリウム利尿ホルモンの分泌増加により排尿量の増加などを介して体液量の減少,
循環血液量の減少しようとする.

臥床24時間後には血漿量の 5~10%の減少がみられ,
20日後には15%もの減少がみられることを示している.(Greenleafの総説)
また,心臓自体の変化では6週間のベッド上臥床が,健常男性の左心室容量・平均心室壁厚を有意に減少させ,
左心室拡張末期容量においては2週間の臥床で有意に減少する.(Perhonenら)
つまり,臥床により循環血液量,体液量が減少することや,
心臓への負荷が低下することによる心臓の廃用性変化が起立性低血圧の重要な要因となっていることが推察される.

2)最大酸素摂取量低下

最大酸素摂取量は,持久力の指標であり,心拍出量,末梢での動静脈酸素分圧較差などで規定さ
れる.最大酸素摂取量は,臥床安静で1日あたり約0.9%低下すると言われている.(Convertino VA)

3)静脈血栓

深部静脈血栓症,静脈血栓塞栓症のリスクが安静臥床により高まり,
肺血栓塞栓症を引き起こす原因となり得る.
静脈還流の要素となる筋ポンプが臥床していると機能しにくいこと,
臥床で血液量が減少するため血液粘稠性が亢進することなどが,
安静臥床による静脈血栓形成リスクの上昇の原因とも考えられる.(園田 茂)

3.呼吸器系

臥床により腹部臓器に押し上げられ横隔膜は4cmほど挙上し,機能的残気量(functional residual capacity:FRC)を 15~20%減少させる.
FRC は安静時の呼気終末に肺の中に残っている肺気量で,ガス交換に大きく関与する.
FRCが減少すると肺内シャントの増加や換気血流比の不均衡につながり
酸素運搬能の低下をもたらす.(宇都宮明美)

健常成人でも肺活量,最大吸気口腔内圧,最大呼気口腔内圧,最大咳嗽流速の項目は,
端座位> 45°ギャッジアップ座位>仰臥位の順に高値(山科ら)で、努力性肺活量,一秒量も座位で仰臥位より有意に高い.(Vilke GMら)
座位では腹部臓器が下がり肺底部が解放され,胸郭拡張性と横隔膜の運動自由度が高まり,臥床よりも換気に有利となる.(星 孝)
また,臥位では下側となった肺領域がうっ血,肺
胞圧迫,分泌物貯留しやすくなり,下側肺障害を招きやすくなる.
貯留した分泌物が排出されなければ,そこから細菌が増殖し,
沈下性肺炎を起こす原因となる.(Teasell R)

4.消化器系

不動は腸管内の食物通過時間を延長させ,便秘の原因となる.
特に,高齢者ではその傾向が強い.(Simrén M)
健常人の安静臥床で,腸管の運動が低下し,腹部の張りや痛みの訴えが増えたことが報告され
ている.(Iovino Pら)

5.泌尿器系

不動による骨量減少と骨吸収の亢進により高カルシウム血症,高カルシウム尿症が生じ,
尿路結石が生じやすくなる(Teasell R)

6.精神神経系

健常若年男性の20日間の安静臥床実験では,安静臥床前と比較して,
活力が減り混乱が増えるという結果だった.(Ishizaki Yら)
また,術後せん妄の発症について,手術当日の床上安静の苦痛が有意に関与
している(山口ら) 安静臥床の精神機能への悪影響もいわれている.

まとめ

一日中寝たきりは良くない!